TONEX Pedalとは何なのか
IK Multimediaが2023年3月に発売したペダル型のアンプ/ペダルモデラーです。特徴はAIによるキャプチャ機能で、実機のアンプや歪みペダルの音を解析して「Tone Model」というデータに変換します。Kemperやライン6のモデラーが近い発想ですが、TONEXはペダル1台とソフトウェアで完結するのが大きな違いです。
本体には150プリセット(50バンク × 3スロット)を保存できます。ノイズゲート、EQ、コンプレッサー、ステレオリバーブを内蔵していますが、これらは主役ではなく補助的な位置づけです。USB接続でオーディオインターフェースとしても動くので、宅録との相性は非常に良いです。
買った理由は「ハイエンドの音が手の届く価格にある」こと
私が買った決め手は3つでした。キャプチャモデルの精度が高いこと、ハイエンド機と同じ土俵の音が手ごろな価格で手に入ること、そしてMIDIで作曲環境に組み込めることです。
アンプキャプチャという方式自体は珍しくなくなりましたが、この価格帯でこの精度が出るものは多くありません。Kemperやそれに準ずるクラスの機材と比べたときに、「音の到達点」ではなく「同じ方向を向いている音が、この値段で買えるかどうか」という基準で見ると、TONEX Pedalはかなり手前まで来ています。
そしてMIDI In / Outを備えているので、DAWや外部コントローラーからプリセットやパラメーターを切り替えられます。ライブ用の機材としてではなく、作曲用の機材として組み込めるという点が、私にとっては大きかったです。
歪みペダルとして使う、という発想
TONEXはアンプだけでなく歪みペダル単体もキャプチャできます。つまりTS9のTone Model、RATのTone Model、Big MuffのTone Modelを、1台の中に並べて切り替えられるということです。これが歪みペダルとして見たときの最大の強みになります。
アナログ歪み8個を持ち歩く代わりになるか
音の質という一点だけを見れば、かなりの部分で置き換えられます。ただし置き換えられない部分もはっきりあります。
| 観点 | アナログ歪み | TONEX Pedal |
|---|---|---|
| 音のバリエーション | 1台1音 | 150プリセット |
| つまみの直感性 | ◎ 触ればわかる | △ 画面を見る場面がある |
| ボード上の省スペース | △ 増えるほど場所を取る | ◎ 1台で完結 |
| ライブでの即応性 | ◎ 踏めば切り替わる | ○ プリセット構成の作り込みが要る |
| 電源 | 9V電池も可の機種が多い | 9V DCアダプター(320mA) |
| 故障時のリスク | 1台死んでも他は生きる | 1台死ぬと全部止まる |
使ってみての結論:代わりになります
私の使い方の範囲では、アナログ歪みの代わりとして問題なく成立しています。「モデリングだから一歩落ちる」という前提で構えていましたが、実際に音を作って弾いてみると、そこを気にする場面がありませんでした。
ただしこれは作曲用途での話だという但し書きを付けておきます。ライブでとっさに音を切り替える、足元で直感的につまみを回す、といった使い方では評価が変わる可能性があります。次の項目に書くとおり、そこは環境によって印象が分かれるところだと思います。
引っかかる点は2つある
1. センド/リターンが無い
これが一番大きいです。TONEXにはエフェクトループがありません。歪みの後段にディレイやリバーブを繋ぎたい場合、TONEXの後ろに空間系を置く形になります。内蔵リバーブはありますが、本格的な空間系を使いたい人には物足りないはずです。
アンプのリターンに挿して使う想定なら問題ありませんが、「歪みペダルとしてボードの真ん中に組み込む」使い方をすると、ここで一度つまずきます。
2. ディスプレイが見づらい
小さく、暗いステージだと文字が読み取りにくい場面があります。プリセット名を頼りに操作する運用だと、ここがストレスになります。バンク/スロットの並びを体で覚えてしまえば実用上は困りませんが、買ってすぐの時期は戸惑うと思います。
私が実際に困ったこと:今のところ、ほぼ無い
正直に書くと、上の2点で決定的に困った場面は、私にはまだありません。エフェクトループが無いことも、内蔵リバーブで足りる範囲で使っているので問題になっていません。ディスプレイも、暗いステージで使っていないので支障が出ていません。つまりこの2点は使い方によっては最後まで気にならない種類の弱点です。
むしろ気になったのは端子の位置
強いて挙げるなら、シールドの抜き差しの取り回しです。入出力端子はリアパネルにまとまっているので、机に置いて作曲に使う場合、背面側にケーブルの張り出すスペースが必要になります。ペダルボードに組むなら合理的な配置ですが、デスクで使う想定だと、置き場所を決めるときに一度考えることになると思います。
私は問題なく収まっていますが、机が狭い環境の人は事前に奥行きを測っておくといいかもしれません。本体自体の奥行きは142mmです。
Tone Modelを自分で作る
TONEXの本質はここにあります。手持ちのアンプや歪みペダルをキャプチャして、自分だけのTone Modelを作れます。作ったモデルはペダル本体・Mac/PC版・iPhone/iPad版で共通して使えますので、自宅で作り込んでライブに持ち出す、という流れが作れます。
ToneNETというユーザー同士でTone Modelを共有する仕組みもあり、他の人が作ったモデルをダウンロードして使うこともできます。日本のギタリストではGodspeedの青木征洋さんが公開したSoldanoのTone Modelが、2022年の全世界ランキングでトップ10に入ったことが知られています。
正直に書いておきます。私自身はまだ自分でのキャプチャを試していません。付属のTone Modelと、公開されているモデルだけで十分に足りているためです。ここは実際に試したうえで、あらためて追記します。
逆に言えば、キャプチャをしなくても実用になるということでもあります。TONEXは「自分でキャプチャしてこそ」という紹介をされがちですが、付属のTone Modelと共有モデルだけで使い続けている人も多いはずです。買ってすぐに何かを作り込まなければならない機材ではありません。
どんな人に向くか
「アンプ直+リバーブだけあれば十分」というタイプのギタリストなら、TONEX Pedal 1台でライブに行くことも現実的です。逆に、複数の空間系を細かく組み合わせたい人や、つまみを触って音を作る感覚を大事にしたい人には、素直におすすめしにくい機材です。
いちばん得をするのは作曲する人だと思う
私の実感として、この機材が一番効くのは曲を作る人です。理由は3つあります。
- オーディオインターフェースを兼ねるので、机の上の機材が1台減る
- MIDIでDAWからプリセットを切り替えられるので、曲ごとの音を呼び出せる
- アンプを鳴らせない時間帯でも、ハイエンド寄りの歪みで作業を進められる
「ライブ用のモデラー」として見ると、エフェクトループが無いことが引っかかります。でも作曲用の音源として見ると、その弱点がほとんど問題にならない。同じ機材でも、置く場所によって評価がはっきり変わるタイプです。
電源について補足
「専用電源が必要で扱いにくい」と書かれていることがありますが、実際は9V DC センターマイナスの320mAです。特殊な電源ではないので、消費電流に余裕のあるパワーサプライなら普通に使えます。電池が入らない点だけ注意してください。
結論
歪みの質は価格以上で、アナログ歪みの代わりとして成立します。エフェクトループが無いのは事実ですが、作曲用途ではほとんど問題になりません。ライブ機材としてより、作曲機材として見たときに評価が上がる1台です。
良かった点
- キャプチャの精度が高く、アンプも歪みペダルも実機に迫る
- 150プリセットを本体に保存でき、1台で音色の幅が出せる
- オーディオインターフェースとして宅録にそのまま使える
- MIDI In / Out を備え、DAWや外部コントローラーから切り替えられる
- 作ったTone Modelをペダル・PC・iOSで共通して使える
気になった点
- センド/リターンが無く、空間系との組み合わせに制約が出る
- ディスプレイが小さく、暗い場所では読み取りにくい
- 内蔵エフェクトの種類が少なく、外部ペダルの併用が前提になる
- 端子がリアパネルに集中しており、机に置くと背面にスペースが要る
向いている人:作曲・宅録が中心の人/アンプ直に近いシンプルな構成の人/複数の歪みを1台にまとめたい人
向かない人:空間系を細かく作り込みたい人/つまみを触って音を作りたい人/電池駆動が必要な人