TONEX Board は何が変わったのか
TONEX Pedalは「アンプキャプチャ専用機」でした。エフェクトはノイズゲート・EQ・コンプ・リバーブの最低限で、ディレイやモジュレーションは外部ペダル前提。TONEX Boardはそこを全部埋めにきた製品です。
| TONEX Pedal | TONEX Board | |
|---|---|---|
| Tone Model 同時使用 | 1 | 最大4(デュアルシグナルパス) |
| エフェクト | ゲート・EQ・コンプ・リバーブ | 76種類(AmpliTube由来51種を追加) |
| エフェクトループ | なし | ステレオ Send/Return(モノ2系統としても使用可) |
| ディスプレイ | 小型モノクロ | 5インチ カラータッチスクリーン |
| フットスイッチ | 3 | 4 |
| ノブ | 5 | 6(プッシュ式ロータリー) |
| 付属 Tone Model | — | 2,000種類 |
| MIDI | In / Out | 対応 |
| 国内価格(税込) | ¥79,200 | ¥198,000 |
Pedalユーザーとして一番大きいのは Send/Return
TONEX Pedalのレビューで、私は「センド/リターンが無いのが最大の弱点」と書きました。Boardはそこが解消されています。ステレオのSend/Returnを、2系統のモノSend/Returnとして使えるのもポイントで、歪みの前後に別々のペダルを挟むような組み方ができます。
つまりBoardは「Pedalの音をそのまま、ボードの真ん中に置ける機材にした」という位置づけです。Pedalで感じた不便のほとんどは、Boardなら起きません。
価格をどう見るか:ハイエンドと比べると安い
198,000円という数字だけ見ると高く感じますが、同じ「フロア型のアンプモデラー」で比べると、むしろ下のほうです。
| 製品 | 国内価格(税込・目安) | 備考 |
|---|---|---|
| TONEX Board | ¥198,000 | 2026年9月4日発売 |
| Fractal Audio AM4 | ¥176,000 | Axe-Fx IIIと同じアルゴリズム。別記事で比較 |
| Kemper Profiler Stage | ¥275,000前後 | プロファイリング機の定番 |
| Neural DSP Quad Cortex | ¥279,000前後 | 当サイトのマルチランキング4位 |
| Fractal Axe-Fx III | さらに高価 | ラック型・フットコントローラー別売 |
| Line 6 Helix Stadium | 海外で$2,000超 | 2025年発表のフラッグシップ |
海外の反応も同じで、Guitar Worldは「同クラスの競合と比べて競争力のある価格」と評価しています。Quad Cortex mini($1,399)より安く、Helix Stadium($2,000超)の半額です。KemperやAxe-Fxを検討していた人にとっては、明確に「安い選択肢」になります。
価格はいずれも2026年9月時点で確認した国内実売の目安です。為替と在庫で頻繁に変わるため、購入前に必ず販売店でご確認ください。
本当の比較相手は「TONEX Pedal + Eventide H90」
ここからが私が一番気になっていた話です。TONEX Pedalを使っていると、空間系で本気を出したくなったときに結局 Eventide H90 が欲しくなる。だとすると比較すべきは、KemperでもQuad Cortexでもなく、「Pedal+H90」という組み合わせのはずです。
値段はほとんど変わらない
| 構成 | 税込合計 | Boardとの差 |
|---|---|---|
| TONEX Board 単体 | ¥198,000 | — |
| TONEX Pedal(¥79,200)+ H90(¥158,400) | ¥237,600 | Boardのほうが約4万円安い |
| TONEX One(¥37,400)+ H90(¥158,400) | ¥195,800 | ほぼ同額 |
| TONEX One セール時(¥25,300)+ H90 | ¥183,700 | こちらが約1.4万円安い |
正直に言うと、私は最初「Pedal+H90のほうが安いのでは」と思っていました。計算したら逆でした。Pedal+H90はBoardより4万円ほど高い。TONEX Oneに落とせばほぼ同額になりますが、Oneはプリセット数と操作系がPedalとは別物なので、単純な置き換えにはなりません。
だから論点は「値段」ではなく「エフェクトの質」
値段が変わらないなら、分かれ目は1つです。Boardに内蔵された76エフェクトが、H90の代わりになるかどうか。
ここは正直に、Boardに不利な材料があります。gearnewsのレビューでは、もともとのTONEX Pedalの内蔵エフェクトは「当たり外れが大きい」と評価されており、BoardはAmpliTubeから51種類を持ち込むことでそこを改善しようとしている、という書き方をされています。つまりBoardのエフェクトは「AmpliTubeのプラグインの音」であって、H90のような空間系専用機と同じ土俵ではありません。
H90はリバーブ・ディレイ・ピッチ・モジュレーションに特化した専用機で、その音を求めて15万円出す人がいる機材です。Boardの76エフェクトが「十分」なのか「H90の代わりにはならない」のかは、実機を触った人の評価を待つ必要があります。
私の現時点の見方
「空間系にこだわりがあるならPedal+H90、1台で完結させたいならBoard」という分かれ方になると思っています。値段が同じなら、H90の音を知っている人ほどBoardのエフェクトに厳しくなるはずです。逆に、H90を買うほど空間系にこだわらない人にとっては、Boardの1台完結は大きな魅力です。
海外で指摘されている懸念点
発表直後の海外メディアとユーザーの反応から、懸念として挙がっている点をまとめます。
- Wi-Fi / Bluetooth が無い。ToneNET(Tone Modelの共有サービス)への接続にはPCが必要
- アップデートの遅さ。IK Multimediaの過去数年のアップデート方針は、Line 6などの競合と比べて緩いという指摘
- Pedalの約4倍の価格。「機能は増えたが、Pedal2台分よりは汎用性が高い、という程度の差なのか」という声
- キャプチャ精度への疑問。一部ユーザーから、他方式のキャプチャと比べて劣るのではないかという意見(ただし発売前の段階での指摘)
Wi-Fiが無い点は、Pedalユーザーの私からすると「Pedalと同じ」なので驚きはありませんが、20万円の機材としては物足りなく感じる人もいると思います。
TONEX Pedalユーザーは買い替えるべきか
私自身の結論は「今すぐは買い替えない」です。理由は3つあります。
- 作曲用途ならPedalで足りている。エフェクトループが無いことも、DAW側でエフェクトをかければ問題にならない
- Boardの内蔵エフェクトの評価がまだ出ていない。ここが「H90の代わりになる」レベルなら考え直す
- ライブで使う予定がない。Boardの価値はライブでの1台完結にあるので、その用途が無い人にとっては割高
逆に言えば、ライブで使いたくて、外部ペダルを減らしたくて、KemperやQuad Cortexは高いと感じていた人には、かなり真っ直ぐ刺さる製品です。Pedalの音に満足しているなら、その音のまま1台完結できる選択肢が20万円で出てきた、という見方ができます。
この記事は実機未使用の状態で書いています。仕様と価格は公式発表と販売店の情報、評価は海外メディアのレビューを参照したものです。TONEX Pedalについての記述は実際に使っている経験に基づいています。試奏する機会があれば追記します。
結論
TONEX Pedalの弱点(エフェクトループ無し・エフェクトが最低限)を全部埋めてきた1台。KemperやQuad Cortexと比べれば明確に安い。ただし「Pedal+H90」と値段がほぼ同じなので、内蔵エフェクトがH90の代わりになるかどうかが分かれ目です。
良かった点
- ステレオSend/Returnを搭載。Pedalの最大の弱点が解消
- 76エフェクト内蔵で、空間系も1台で完結できる
- Tone Modelを最大4つ同時使用できるデュアルシグナルパス
- 5インチのカラータッチスクリーンで、Pedalのディスプレイ問題も解消
- Kemper Stage・Quad Cortexより約8万円安い
気になった点
- Pedal+H90と値段が変わらないため、空間系にこだわる人には決め手に欠ける
- 内蔵エフェクトの質は未評価。Pedalの内蔵エフェクトは「当たり外れが大きい」と言われていた
- Wi-Fi / Bluetooth非搭載。ToneNET接続にはPCが必要
- TONEX Pedalの約2.5倍の価格。作曲用途だけならPedalで足りる
向いている人:ライブで1台完結させたい人/KemperやQuad Cortexは高いと感じていた人/Pedalのエフェクトループ無しに困っていた人
向かない人:作曲・宅録が中心の人(Pedalで足りる)/空間系はH90クラスが必要な人/Wi-Fi連携を重視する人